ナルキ3感想

ナルキッソス 3rd

ナルキッソス 3rd

プレー開始から2ヶ月以上の時間を経てようやくコンプ。
色々あってコンプするまでにここまで時間が掛かってしまった。
以下、シナリオ別の感想。ネタバレ全開なので気をつけてください。


・死神の花嫁(シナリオ:ごぉ)
同人で名を売っているライターらしく中盤以降の物語の振り幅が大きくエンタメ性が強いのが印象的(それと作中で唯一選択肢を取り入れていた)でしたが、果たしてナルキッソスにそれが必要だったのかと問われれば疑問符が付く。終盤の過剰にドラマチックな演出や展開は主題を根こそぎ洗い流してしまう危険性が伴うし、死を受け入れていく課程を描いてこそのナルキ(少なくとも自分はそう思う)に主題に触れないおまけ要素だったとは言え、果たしてIFが必要だったかと問われれば、全く必要なかったと言わざる得ない。過去の成功体験から竜騎士07やるーすぼーいライクないかにも飛道具重視の同人的手法を無遠慮に駆使したのがかえって仇になったのではなかろうか。序盤にあるキャラ同士の掛け合いもナルキのテンションにしてはやや高いのもマイナス。医者と患者との関係性を巧く描いていた所は評価したいが……。


・-Ci-シーラスの高さへ(シナリオ:酸橙ひびき)
積みゲ化した最大の元凶(笑)。序盤さわりの寒いやりとりに寒疣がたってそのまま放置プレイに。お陰でおまけシナリオを除いては一番最後にクリアしたシナリオとなりました。全体的に野心が空回りした印象でしたが、ナルキのもう一つのテーマ、タイトルの花言葉に当たる「自己愛」を主題として選んだそのセンスは賞賛したい。まぁ、だからと言ってもう一つのテーマである「死生観」をおざなりにするのを良しとはしませんが。最後のエレベーターのシーンでのセリフ「それじゃあ、死んでくるね・・・」その諦観に至るまでの過程が全く見えてこなかったのが全てかなと思います。素材選びまでは良かったのに料理で失敗とでも言いますか、序盤中盤の寒いやりとりを削ればなんとかなったんじゃないのかね。あれになんらかの必然性や美意識でも見いだしていたのだろうか、このライターは。それとどうでもいいことなのだが、その他扱いされたのには同情しておく。


メサイア(シナリオ:早狩武志
もっともナルキらしいシナリオ。商業でそれなりを評価を得ているベテランらしく安定感抜群の展開に満足。選んだ主題は死に往く者と残される者の心理とその過程(キューブラー=ロスの「死の受容への過程」を度々引用しているところから)でしたが、しかし、早狩が作中で最も伝えたかったことは「人はいつ死ぬか分からない」なのではないかと思った。それは常識的判断を逆手に取ったプロローグでのミスリードから見てももっとも強調したい所だったのでは。単に物語に厚みを持たせるための奇手であったのかもしれないが、2つ前のシナリオに色々とゲンナリさせられただけに比較として余計に輝いて見えたのは確か。ラストの息子命名シーンはベタだなぁと思いながらも今作で最も死について考えさせられたナルキッソスの名に恥じない優れたシナリオでした。作中のバイクをネタにした展開も非常にナルキらしい。上手なヲタクの使い方。


・小さなイリス(シナリオ:片岡とも
ここで真打ち登場。前三作と違い、全く異質の世界設定に驚き。あえて今までの世界観から逸脱したのは「ナルキッソスとは何なのか?」を自らが示したかったからなのだろうか。まぁ、原作者だからこそ出来る奇手には違いない。恐らくナルキッソスという作品を貫徹する二つのテーマ「死生観」と「自己愛」について一番分かりやすく語られたシナリオにしたいがための設定――ってのが本当のところだろう。ナルキのサブテーマに当たる信仰(キリスト教の)について語るために宗教(この場合キリスト教カトリック)の暗部が露骨に暴露されたヨーロッパ中世を世界観を選んだのは必然か。ある部分では最もナルキらしくないシナリオと言えるし、ある部分では最もナルキらしいシナリオと言える。やはり原作者ですからね。


・総論
ナルキッソスの続編と言うよりは1、2の世界観をベースにした別作品といった趣。片岡シナリオに至ってはテーマのみ同期した形。普通のギャルゲ・エロゲでは決して取れない手法だろう。出来に差こそあれナルキッソスをどう捉えるかで三者三様(片岡は別として)の結果が出たのは最も望んだ所なんじゃないのだろうか。そして、その意味で今回の試みは大成功だったと思える。個人的には上記4つのシナリオやおまけシナリオよりも1993が心に来るものが大きかったかな。