悪の教科書 感想

公式
http://www110.sakura.ne.jp/~sundervolt/textbook.htm
配布先
http://southerncross.sakura.ne.jp/circle/sundervolt.html

あらすじ


先生は教える この世の闇を
先生は教える 闇の歩き方を
死の匂いを嗅ぎつけて どこからともなく現れる

誰も知らない悪の授業 読み上げたるは悪の教科書
これは狂った先生と 彼の生徒になった少年少女の物語


知ってはいけないことを知り
考えてはいけないことを考えてしまう
闇の真理を知った生徒の 行くべき道は生か死か

そして同じく全てを知った 君自身が行く道は……?


いわゆるオタクという人種は総じて新聞やテレビなど大メディアに対して批判的スタンスを取っている――いや、取らざる得ないのですが(手塚の時代から漫画アニメに対する世間の風当たりは強く、宮崎勤の件でその傾向が顕著になった。オタクに嫌韓嫌中が多いのもメディア不信が根底にあると思う)、彼らの主張の多くは著しく偏向しており、あくまで党派の域を出ないステロタイプ左翼の合わせ鏡のような存在だ。
この「悪の教科書」もそのような文脈から派生したありがちな「極右的言説」(マジにとるなよ)の一つと言えますが、ネット上で散見されるオタク達の感情にまかせた罵詈雑言とは距離を置き、あくまで理性に任せ理路整然と作ろうとした姿勢が見受けられる。
とは言っても所詮は党派の域を出ない偏向した思想であることには変わりなく、作者の思想に共鳴出来るかどうかがこの作品において下せる評価の全てと言える。物語の筋などは今作に置いては全く瑣末な要素であり、あくまでノベルに物語を求めるプレイヤーにとっては全く不向きな純然たる「社会批判ノベル」である。
以下、各章ごとの感想。


一章
最も普遍的な現実に立脚したテーマでありながら、最も偏向した作者の思想をプレイヤーにぶつけてくる。ここでカタルシスを得られるかどうかでこの作品に対するスタンスもおのずと見出せる言わば試金石となる章。常道としては巧いガス抜きの仕方を教えるのが最善(例えば格闘技を教えてなめられないようにする、とか)と思われるが、正しい喧嘩の方法を教えるには遅すぎたのかもしれない。それだけ心が摩耗していた。主人公の下した決断を理性では批判しつつも感情では逆らえないジレンマに思わず胸が疼きました。


二章
唯一のハッピーエンドでしょうか。作者もあとがきで言及していましたが、これ何てマリ見て? アネモネの君(笑)はどう見ても笑い所にしか見えない。全体に穏やかなファンタジー臭を放つまず有り得ない世界観のため、これが「社会批判ノベル」の名に果たして値するのだろうかといささか心配になってきます。後述の三章との比較になりますが、宗教の扱われ方にバランスの欠如が見られる。これは個人的にとても心地の悪い「偏向」でした。


三章
時系列では一番先。先生の過去のお話。同僚教師の洗脳攻勢(まぁ、言わんとしてる事は分かるけど、やってることは同じに過ぎないのよね)にうんざりしながらも、何やら陳腐なラブストーリー?に突入する。しかし、同情で結婚するものなのか。生徒に手を出すとか年齢以前の問題です。これが人格的教師なのかよ、と。どうやらこの章では思想を語ることばかりに拘りすぎて人の営みを軽視する典型例がここに見られます。地に足を付けず机上の空論ばかりを語る人間に「人格」とやらが備わっているとは到底思えません。


四章
一応名指しで書いておく。創価学会
新興宗教批判が、とは言ってもあくまで世界設定の色づけ程度のものでそれほど深く切り込んでいる訳ではない。地域信仰や童謡について、日本的価値観への回帰を謳った章といった印象が強い。作中で一番自分の価値観に馴染みました(次点は一章)。童謡は良いですね。ただ、シャボン玉の俗説は蛇足だったと思う。プレイヤーの理解力に任せて良かったのでは。


五章
ここまで付いてきてしまったのだから今更ご都合主義乙とかは言えません。まとめ乙。


総論
「学校教育」「法律」「差別」「医療」「宗教」「フェミニズム」「戦争」など多岐に渡った日本社会の問題点を批判し、最後に理想(対案)を示すことで締めた(思想の是非はあれ)筋の通った素晴らしい作品。批判それだけでも意味はあるが、あくまで対案示してこその批判である。作中貫徹したその姿勢に一番の共感を覚えたのは言うまでもない。
今作最大の長所であり欠点(問題点)は、作者の思想に応呼する形で嫌でも自分の思想について考えさせられる力(ホント、凄いよ)を持っているがためある程度のリテラシーが不可欠であること。18禁にしても良いくらい。作者自身もこれがプロパガンダとして機能することを良しとはしないでしょう。勧める時は慎重に。